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放射線の6つの単位について
2025.12.11
歯科皆様こんにちは。歯科の分野でも画像検査に欠かせないX線を含めた放射線のお話をします。その基本であります単位については、分かりにくい印象がありますので、本日は「放射線の6つの単位について」というテーマで福岡歯科大学 画像診断全身管理学講座画像診断学分野 香川豊宏 主任教授のお話を致します。放射線とは高速度で運動している粒子線あるいは電磁波の総称で、図1に示した通り、物質に当たると軌道電子が軌道から離れイオン化する現象、つまり物質から軌道電子を電離させる作用を持つ放射線である電離放射線、軌道電子を電離させる作用を持たない放射線である非電離放射線に分けられますが、一般的に電離放射線を単に狭義の放射線と呼んでいます。また電離放射線には、十分なエネルギーをもった荷電粒子が物質の原子や分子に直接衝突することで起こる電離作用を持つ直接電離放射線と、電荷粒子をもたない中性粒子や電磁波が物質の原子や分子を励起した結果、新たに荷電粒子(二次荷電粒子)を放出させ、二次荷電粒子が物質に衝突することで起こる電離作用を持つ間接電離放射線に分けられます。さらに間接電離放射線は、非荷電粒子が原子核に衝突後、二次荷電粒子(反跳陽子、α線)が発生し電離を起こす中性子と、粒子線の様に質量や電荷粒子もない電磁波(光子)が原子の電子を飛ばして放出された荷電粒子(電子)が電離を起こすX線、γ線に分類されます。
放射線の6つの単位については以下の通りです。
1.照射線量(C/kg:クーロン/キログラム)
空気中において電離により生成された電荷の量を示します。
2. 吸収線量(Gy:グレイ)
放射線が物質に通過していく際に放射線が物質に与えた熱量、つまり物質が吸収した熱量を示します。
3. 放射能(Bq:ベクレル)
放射性物質がエネルギー自体である放射線を放出する能力を示す。懐中電灯に例えますと、放射線が「光」、放射能は「光を出す能力」、放射性物質は「懐中電灯」となります。
4. 放射線のエネルギー(eV:エレクトロンボルト)
電子が1Vの電圧で加速されて得る運動エネルギー
5.等価線量(Sv:シーベルト)
等価線量と実効線量は、どちらも放射線による人体への確率的影響(がんや遺伝的影響)の度合いを示すSv(シーベルト)という単位で表されますが、等価線量は放射線の種類によって異なる人体への影響を補正した値を示します。
6.実効線量(Sv:シーベルト)
人体の各臓器の確率的影響の程度を考慮した単位で、悪性腫瘍が発生する目安となります。
上記、放射線の単位について、傘を差してない人に雨が降っている状況に例えますと、雨雲が雨粒を降らせる能力、つまりどれだけ放射線を出す能力があるかを放射能(Bq:ベクレル)、実際に地上に降ってきた雨量、つまり人体に向けて飛んできた放射線量を照射線量(C/kg:クーロン/キログラム)、服に染み込んだ雨の量、つまり人体に吸収された放射線量を吸収線量(Gy:グレイ)、さらに傘を差さずに濡れたままで風邪を引いてしまったという人体への影響、人体の放射線の影響を等価線量または実効線量、単位はいずれも(Sv:シーベルト)で表されます。照射線量、(C/kg:クーロン/キログラム)の計測方法は電離放射線が物質に当たると電離が生じ、軌道電子が飛ばされることを利用しています。つまり、X線照射器から照射される放射線が空気中の成分である酸素や二酸化炭素、窒素などに当たることで電離が生じ、生成された電荷の量つまり、電離による軌道電子数を人体に向けて飛んできた放射線量として計測したものが照射線量、(C/kg:クーロン/キログラム)となります。吸収線量(Gy:グレイ)は放射線が人体に与えたエネルギーのことで、例えるなら誰かを殴った時の力に相当しますが、紙の棒、木の棒、鉄の棒など殴った時の凶器の違いにより人体へのダメージは大きく異なりますので、殴った時の力というだけでは人体への影響はわかりません。例えば10Gyの放射線が人体に当たったとしても、X線、γ線、中性線、陽子線など放射線の種類によっても人体への影響の程度は大きく異なります。図2に示した通り放射線の種類により放射線荷重係数は異なり、画像検査で使用されるX線、γ線を1とすると中性子線5~20と高い値を示し、数値が大きい値程、人体への影響は大きくなります。そこで、種類により異なる放射線による人体への影響を補正した値である等価線量(Sv:シーベルト)は、
Gy値×放射線荷重係数
という計算式で表され、各放射線の種類ごとに人体に当たった影響の違いを明確にすることができます。例えば、人体に10Gy(グレイ)に放射線が当たった場合、先の放射線荷重係数から、X線、γ線では、等価線量は10Sv(10Gy×1)ですが、陽子線では50Sv(10Gy×5)、中性線に至っては200Sv(10Gy×20)という値になります。しかし、考慮しなくてはならないのが、人体の各部位には放射線に弱い部分と強い部分があり、放射線の種類に加え、人体の各部位の内、どこに当たったのかについて加味する必要があり、等価線量では人体の各部位ごとの具体的な影響までは分かりません。例えるなら、同じ凶器を使って同じ力で誰かを殴ったとしても、殴った場所が顔と足では相手のダメージは大きく異なるのと一緒です。図3では、放射線による影響を人体の異なる各組織別に数値化したもの組織荷重係数で示しており、数値が大きい値程、人体への影響は大きく、放射線に弱い組織であるということになります。そこで、実効線量(Sv:シーベルト)の場合、
等価線量(Sv:シーベルト)×組織荷重係数
という計算式で示され、実際に被爆した部位の影響まで判別できます。つまり、等価線量(Sv)は組織に吸収されたエネルギーである吸収線量(Gy)×放射線荷重係数にて数値化したもので、どんな放射線が人体に当たってどんな影響があるのかが判明し、実効線量(Sv:シーベルト)では、その等価線量(Sv)×組織荷重係数を数値化することで、どんな放射線が人体に当たってどんな影響があるのかだけではなく、それが人体のどの組織に当たってどんな影響があるのかも判明するため、放射線による人体への影響については最終的に、この実効線量が重要になります。例えば、10Sv(シーベルト)の等価線量である放射線が人体の皮膚表面に当たった場合、実効線量は0.1Sv(10Sv×0.01)ですが、同じく10Sv(シーベルト)の等価線量である放射線が生殖器に当たった場合では、実効線量が0.8Sv(10Sv×0.08)と、皮膚表面より8倍数値が大きいため、生殖器の方が人体への影響が大きく、放射線に弱い組織であるということがわかります。
本日は、分かりにくい印象があります放射線の単位につきまして、非常に分かりやすい香川豊宏 先生のお話をさせて頂きました。


