ブログ

Blog

顎変形症の分類とその顎矯正手術の方法について(前編)

2025.10.07

歯科
皆様こんにちは。
本日は顎変形症の分類とその顎矯正手術の方法についてお話をします。顎変形症とは上下顎骨の前後的、上下(垂直)的、左右(水平)的位置関係が著しくズレて変形しているため、矯正治療単独では咬合の改善、変形・非対称の顔貌を回復することが難しい骨格性不正咬合のことです。咬合改善、顔貌の調和を図るためには、外科手術を併用した矯正歯科治療、いわゆる外科的矯正治療が必要となり、顎矯正手術の前後に行われます術前矯正治療、術後矯正治療は矯正歯科医が行いますが、顎矯正手術は口腔外科医や形成外科医が担当するため他科との連携治療が必要となります。外科的矯正治療の対象となる顎変形症における上下顎の骨格的位置不正は以下分けられます。
1.前後的位置関係の不正
上下顎前突症、下顎前突症、上顎後退症、上顎前突症、下顎後退症
2.上下(垂直)的位置関係の不正
開咬、過蓋咬合
3.水平(左右)的位置関係の不正
交叉咬合、偏位咬合
4.口唇裂・口蓋裂などの顎顔面の先天異常による骨格性不正
なお、上記不正をいくつか合併している顎変形症の患者様も多く当院にも合併している顎変形症の患者様がいらっしゃいます。
また顎変形症に対しては以下のような手術方法があります。
ア.Le FortⅠ型骨切術(Le FortⅠOsteotomy)
イ.下顎枝矢状分割術(SSRO/Sagital Splint Ramus Osteotomy)
ウ.下顎枝垂直骨切術(IVRO/Intraoral Vertical Ramus Osteotomy)
エ.前歯部歯槽骨切り術(Wassmund法、Wunderer法、Köle法)
本日は「顎変形症の分類とその顎矯正手術の方法について(前編)」というテーマで
Le FortⅠ型骨切術(Le FortⅠOsteotomy)、下顎枝矢状分割術(SSRO/Sagital Splint Ramus Osteotomy)についてお話しします。
ア.Le FortⅠ型骨切術(Le FortⅠOsteotomy)について
(術式)
フランスの外科医Le Fort(ル・フォー)が上顎骨骨折にはパターンがありⅠ~Ⅳ型に分類したことから、骨切りしやすい部位であるという発想に置き換え、考案された手術方法です。Le FortⅠ型骨切術は口腔内より切開を行い、骨の露出後、梨状口下壁から水平に後方へ向かって上顎骨体を離断する術式で、固定はチタンや吸収性材のプレートにて行います。
(利点)
・上顎骨の前後的、上下的、左右的(非対称)な位置関係の不正などの改善が可能な上、ほとんどが下顎骨切術を併用するため、適応範囲が広く顎顔面全体の変形に対応可能です。
(欠点)
・上顎骨後方は血管が豊富であり、ある程度の出血が懸念されるため、本術式の一般的出血量、約800ccを術前に自己貯血を行う準備が必要となります。
・鼻の粘膜の損傷を伴うため、術後の鼻出血、鼻粘膜の腫脹が懸念されるため、鼻の抗炎症薬の吸入が必要となります。
・術式上、頬の知覚神経の伸展を伴うため、術後に頬の知覚鈍麻による感覚の鈍りが生じる場合があります。
イ.下顎枝矢状分割術(SSRO/Sagital Splint Ramus Osteotomy)について
(術式)
下顎枝矢状分割術(SSRO/Sagital Splint Ramus Osteotomy)、下顎枝垂直骨切術(IVRO/Intraoral Vertical Ramus Osteotomy)とともに、顎矯正手術の中でも頻用され、下顎枝内部の神経・血管を内側に避けて左右の下顎枝を縦に切断し、顎関節部を含む左右の近位骨片、神経・血管、歯列を含む下顎体の遠位骨片と下顎骨を3つの骨片に分割する術式で、固定はスクリューによる両骨片のネジ止めと顎間固定を併用します。
(利点)
・術後の顎位の安定が良好なため、一般的に後戻りが少ないとされています。
・顎間固定が比較的短期間で済むため、比較的早い退院が可能です。
・下顎骨の移動量の制限がないため、適応範囲が広い。
・下顎枝垂直骨切術(IVRO/Intraoral Vertical Ramus Osteotomy)と異なり、スクリューによる固定は1週間以内で撤去が可能です。
(欠点)
・骨の切開線が神経・血管に近接しているため、手術に伴う伸展操作により約半数程度の患者様に術後に支配神経に関わる下唇・オトガイ部の知覚鈍麻感が生じる場合あります。
神経組織の回復には時間を要するため、知覚鈍麻感について数週間で元に戻り始める患者様が多い様ですが、数か月から約2年を要することもあります。
・スクリューによる両骨片のネジ止めのために、両側の下顎角下方の皮膚の7割程度、切開する必要があります。
本日は「顎変形症の分類とその顎矯正手術の方法について(前編)」というテーマでしたが、次回も引き続き「顎変形症の分類とその顎矯正手術の方法について(後編)」というテーマでお話をします。