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乳幼児の口腔細菌叢の形成と両親の口腔細菌との関係について
2020.10.06
未指定皆様こんにちは。
本日は予防歯科の普及および啓発につながる実態調査を長きにわたり行っているライオン株式会社(代表取締役社長 掬川正純氏)の研究チームによる「乳幼児の口腔細菌叢の形成と両親の口腔細菌との関係性について」のお話をします。細菌叢から抽出したDNA配列を網羅的に決定し、集合体全体の構成や機能を調べる次世代シークエンサーという解析方法を行ったところ、乳幼児の口腔内細菌叢の形成には両親の口腔細菌叢が深く関与していることが判明しました。(2019年6月7日の企19-9号)ちなみに、口腔内細菌叢とは一般的に500~700種類の細菌で構成される口腔環境に生息する細菌の集団のことで、個人の体質・体調、食生活、生活習慣などの影響を受け、固有の集団を形成するとされ、特に腸や皮膚における細菌叢は生活習慣・疾患と関連性が高いと注目されています。本研究結果は2019年6月10日に札幌で行われた「第57回日本小児歯科学会学術大会」でも発表されましたので、その概要をまとめました。
歯垢などに潜在する細菌が要因で生じる齲蝕や歯周病はいずれも歯の喪失につながる口腔疾患であり、その予防や治療として、フッ素による歯質強化、プラーク除去、殺菌などの方法が行われてきましたが、近年、口腔疾患に罹患している方は健康な人の口腔細菌叢と異なることから、齲蝕や歯周病の抑制には口腔細菌叢を整えることが重要だと考えられています。今まで、特定の細菌についての報告として、乳幼児期の口腔細菌については、齲蝕の原因菌であるストレプトコッカス・ミュータンスが母親から子供に感染するという報告はありましたが、口腔内細菌叢についての報告や、父親からの影響についての報告はほとんどありませんでした。そこで、同社オーラルケア研究所、先進解析科学研究所、公益財団法人ライオン歯科衛生研究所では、服部正平先生をリーダーとする特定国立研究開発法人 理化学研究所 生命医科学研究センター マイクロバイオーム研究チームの技術指導の下、次世代シークエンサーによる細菌叢解析技術を駆使、生活者ライフステージにおける口腔細菌叢の状態と口腔疾患の関係を明確にするために、まず乳幼児と口腔細菌叢がどのように形成されるのか?そのメカニズムについて両親の口腔細菌叢や生活習慣から受ける影響について調査しました。本研究では2015年6月~2016年9月まで出生した子供のうち、調査に承諾頂いた49組の親子(内訳:男の子22名、女の子27名)を調査対象としました。調査開始時の父親の平均年齢は31.6歳(23~44歳)、母親の平均年齢は30.7歳(25~40歳)で、子供たちからは生後1週間、1か月、3か月、6か月、9か月、1歳、1歳半時の唾液を採取し、子供が1歳半になった時点で、両親の唾液を採取した後、次世代シークエンサーを用いて各サンプルから3000配列の口腔細菌叢由来のDNAを読み取り親子間での口腔細菌叢の比較解析を行い、図1、図2のような結果となりました。
図1では、各月齢の子供および父母の唾液中の検出菌種数を示しており、父母の口腔細菌は子供が1歳半の時点で採取した唾液を解析している。(1週間時点のみn=45)その結果、乳幼児の唾液中の細菌数の変化を調べた結果、生後1週間ですでに口腔内に数十種類の細菌が認められ、その後、生後6か月頃から急激に菌種が増加、菌種が多様化することが判明しました。しかしながら、1歳半の時点でも、両親の口腔内細菌数と比較すると有意に少なく、口腔細菌叢は多様化の途中であると考えられた。
図2では、子供の成長に伴い両親との口腔細菌の共有する比率(共有率)の変化を示しており、父母の口腔細菌は子供が1歳半の時点で採取した唾液を解析している。その結果、生後1歳半の時点で、子供と父親または母親との共有率(父親:27.9%、母:29.3%)は、他の子供の父親または母親との共有率(父親:22.6%、母:23.0%)よりも有意に高いことが判明しました。また、この傾向は生後1週間という早い段階で認められ、その後、親子間の共有率は成長するにつれ、増加し、父親との共有率と母親との共有率に有意な差はなかったことから、子供の口腔細菌叢は父親と母親から同等の影響を受けているということを示唆しています。また、夫婦間の口腔細菌の共有率も非夫婦間と比較して有意に高いことが判明しました。このことから、遺伝的に離れた関係にあっても、共同生活を続けていると口腔細菌叢は近似するということを裏付けています。解析結果と、親子間の口腔細菌の共有率が高かった家族と低かった家族各15組について、生活習慣のアンケート結果との関連性を解析したところ、保育園に通っていない子供は母親との共有率が高いこと、父親とのスキンシップの頻度が高い子供程、父親との共有率が高いことが判明しました。これらのことから、口腔細菌共有の原因は、親子間のスキンシップにおける唾液の飛沫など、生活の中で起こっている事象にあると推測できるようです。以上の結果から、母親だけではなく父親の口腔細菌叢も子供の口腔細菌叢の形成に大きく関与しているということが判明しました。今回、親子間の口腔細菌の共有率と因果関係が認められたスキンシップは子供の健やかな成長に欠かせない行為であります。そのためにも、将来、子供が口腔疾患に罹患するリスクを低くするためにも、両親が自身のオーラルケアを継続し、常に健康な状態を維持することが重要だということを示唆しています。
本日は、ライオン株式会社の乳幼児の口腔細菌叢について、大変興味深いお話をさせて頂きました。乳幼児の口腔細菌叢の共有率は親子間という遺伝的関係でなくても共同生活という環境的要因でも高くなるということが分かりました。


【監修者】
矢澤 貴(やざわ たかし)
【略歴】
東京都渋谷区生まれ 成城中学・高等学校(東京都新宿区)卒業
1989年 3月 日本歯科大学 生命歯学部 卒業
1989年 6月 同大学 臨床研修医 着任
1990年 3月 同大学 臨床研修医 修了
1991年 9月 磯貝矯正歯科医院(埼玉県八潮市)勤務
2016年 1月 藤城矯正歯科(東京都世田谷区)勤務
2017年12月 半蔵門スマイルライン矯正歯科(東京都千代田区)開院
2023年 4月 日本歯科大学 生命歯学部附属病院 矯正診療科 臨床講師 着任
【在籍・所属】
日本歯科大学 生命歯学部 附属病院 矯正診療科
日本矯正歯科学会 認定医
東京矯正歯科学会
甲北信越矯正歯科学会
米国矯正歯科学会
日本顎変形症学会