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矯正用ワイヤーの機械的特性について

2025.05.09

歯科
皆様こんにちは。歯の移動に必要な矯正力は弱くて持続的な力を歯に与えることが望ましいとされています。本日は「矯正用ワイヤーの機械的特性について」というテーマで、歯に矯正力を加える材料であります矯正用ワイヤーについての機械的特性について「矯正用ワイヤーの機械的特性について」というテーマでワイヤーの荷重・たわみの関係、ワイヤーの弾性エネルギー、ワイヤーの長さ・太さと矯正力の関係と3つの内容に分けて矯正用ワイヤーの力学的特性についてお話します。
1.矯正用ワイヤーの荷重・たわみの関係
矯正用ワイヤーによる矯正力、つまり力を加えたワイヤーの変形後の復元力、つまり弾性を利用して歯を動かしています。つまり、たわませたワイヤーをブラケットなどのアタッチメントに挿入しますが、変形したワイヤーは元の形に戻ろうとします。ワイヤーは弾性を有しているため、このワイヤーからの反発力が矯正力として歯に負荷がかかり、結果として歯が移動します。
1.ワイヤーの荷重・たわみの関係について
図1では一端を固定(固定端)したワイヤーを他端(自由端)に荷重(P)をかけると、たわみ(λ)が生じ、荷重が大きくなければ荷重を取り除くと瞬時に元の形に復元することを示しています。また図2では矯正用ワイヤーの機械的特性を荷重‐たわみ曲線として示しています。荷重が0から増加し、比例限度に達するまでは荷重とたわみの関係は直線による比例関係で、この直線の傾斜度は材料の剛性(変形のしにくさ)を示していて、傾斜角が大きいワイヤー程、たわみにくいことになります。さらに比例限度を超えてワイヤーに荷重をかけも弾性限度までなら荷重を除去すれば、たわみは0に復元しワイヤーは元の形に完全に復元しますが、この領域では荷重とたわみに比例関係が失なわれた状態となります。この弾性変形域はワイヤーの復元力を余すことなく歯の移動のための矯正力として利用できます。かけた荷重が弾性限度を超えると荷重を除去しても復元しない塑性変形(永久変形)しますが、ワイヤーを屈曲するためにはこの領域まで荷重をかける必要があります。つまりワイヤーの屈曲には弾性限度を超えた荷重が必要だということになり、弾性限度が低いワイヤー程、永久変形しやすく、屈曲や成形が容易なワイヤーとなります。
2.ワイヤーの弾性エネルギー
矯正用のワイヤーに荷重をかけ、弾性変形する際、弾性エネルギー(レジリエンス)がワイヤー内部に蓄積され、弾性エネルギー(レジリエンス)の大きさは図3のとおり荷重‐たわみ曲線と弾性エネルギーの三角形の面積で示されています。荷重が一定の場合、直線の傾斜度(弾性係数)は小さい程、内部面積は大きくなることを示していることから、ワイヤーが変形しやすい程、弾性エネルギーは大きくなることになります。つまり、弾性エネルギーの大きいワイヤー程、ワイヤーの復元が緩慢であるため、歯の移動に必要な矯正力の減少が少なく、歯の移動に適した弱くて持続的な力が発揮されることになります。
3.矯正用ワイヤーの長さ・太さと矯正力の関係
矯正用ワイヤーの長さや断面の太さ(線径)を変えることで一定の荷重当たりのたわみを変えたり、一定のたわみ当たりの荷重の大きさ変えることができます。先ほどの片持ち梁で示す図1で、左端(固定端)を固定した長さ(l)のワイヤーの右端(自由端)に荷重(P)をかけると、たわみ(λ)が生じ、この時のワイヤーのたわみ(λ)は以下の通りワイヤーの長さの関数で示されます。
たわみ(λ)=k(定数)×荷重(P)×ワイヤーの長さ(lの3乗)つまり荷重(P)=たわみ(λ)/ k(定数)×ワイヤーの長さ(lの3乗)
上記のとおり、荷重の大きさはワイヤーの長さの3乗に反比例するため、ワイヤーの長さが2倍になれば、荷重は1/8に減少するが、ワイヤーの長さが1/2(半分)になれば、荷重は8倍に増加することになります。したがって、マルチブラケット装置においてワイヤーにループを組み込んでワイヤーを長くすれば、歯に加える矯正力を弱くて持続的な矯正力にコントロールすることができます。同様にブラケット間の距離が長い程、矯正力は弱くなり、短ければ強くなります。例えば、同一の材質・太さのワイヤーをブラケット間の距離が短い舌側(裏側)ブラケット矯正装置に装着した場合、ブラケット間の距離が長い表側(唇側)ブラケット矯正装置に装着した場合に比べ歯に加わる矯正力は強くなります。またワイヤーの太さ(線径)を変えることでも矯正力をコントロールすることができます。例えば、同一の材質のラウンドワイヤー(丸線)の場合には、ワイヤーの曲げ剛性(曲がりにくさ)は直径の4乗に比例するため、直径が2倍になれば16倍も曲げにくいワイヤーになります。スクエアワイヤー(正方形の角線)であれば、ラウンドワイヤー同様、ワイヤーの曲げ剛性は断面の一辺の長さの4乗に比例するため、ワイヤーの線径が太くなればなる程、矯正力は格段に強くなります。
本日は「矯正用ワイヤーの機械的特性について」というテーマでしたが少し難しい内容でした。次回は矯正用ワイヤーの材質の違いによる特性についてお話しします。

矯正用ワイヤーの機械的特性について
矯正用ワイヤーの機械的特性について
矯正用ワイヤーの機械的特性について