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疲労について(前編)

2020.10.21

未指定
皆様こんにちは。
本日は「疲労について(前編)」というテーマで、そのメカニズムを解明した東京慈恵会医科大学ウイルス学講座教授 近藤一博先生によるお話をします。

文部科学省の調査では就労人口の56%が「疲れている」という結果が出ており、1962年に初の栄養ドリンクが初めて発売されたそうで、疲労により作業効率の低下を招くことはもちろん、うつ病、心筋梗塞、過労死、老化など多くの原因とされています。
かつての脚気同様、この疲労については国家プロジェクトを立ち上げて取り組んでいます。
図1のとおり炎症の兆候でもある「疼痛」や「発熱」と同様、「疲労」は生体の危険を知らせる3大生体シグナルの一つだそうです。
図2のとおり疲労は「生理的疲労」と「病的疲労」に区別され、同講座で研究されているのは、運動や労働などによる負荷に起因する「生理的疲労」だそうです。
もう一つは、運動や労働などの負荷がなくても起き上がれない程、強い疲労感が持続する「病的疲労」と呼ばれるもので、脳神経疾患などで見られ、「うつ病」、「筋痛性脳脊髄炎」、「慢性疲労症候群(ME/CFS)」、「多発性硬化症」などが該当します。
この「生理的疲労」と「病的疲労」とは全く違う病態にもかかわらず、「疲労感」と疲労の原因が明確に区別できないことから、すぐに判別できなかったようです。
しかし、同講座では「生理的疲労」を判定するにあたり、疲労により口唇周囲にはヘルペスが生じるということを利用して、ヒトヘルペスウイルス(HHV-6、HVV-7)の唾液中の量から判別する方法を開発しました。
このHHV-6、HVV-7というヒトヘルペスウイルスは小児期に感染して突発性発疹を生じた後、その遺伝子だけが生涯にわたり潜伏感染するようです。
宿主が生理的疲労を感じた状態になると再活性化して唾液中に出現して宿主に感染するということから、2つの疲労の鑑別方法は、疲労感に伴いHHV-6、HVV-7の値が高くなれば「生理的疲労」、値が高くならなければ「病的疲労」ということになります。
図3のAでは残業による「生理的疲労」によるHHV-6の増加を示していますが、残業の有無という負荷により反応しているため、本人が疲労を自覚する前に判別できることが利点です。
一方、Bは唾液中のHHV-6が増加してない「病的疲労」を示しています。
一般的な診察ではこれらの鑑別には6か月程度かかりますが、初診の段階で判別が可能ということになります。
疲労感は炎症性サイトカインが脳に作用することで生じることが分かっています。
感染症や癌の場合、ウイルスや癌細胞といった抗原に対する免疫反応を伴うのに対して、疲労の場合、抗原がないので、そのような反応が見られないのも関わらず、炎症性サイトカインが産生されるメカニズムは不明でしたが、同講座による研究により、図4のとおり運動や労働などの負荷がかかると「eIF2α」という物質がリン酸化し、炎症性サイトカインの産生が促進され、この炎症性サイトカインが脳に作用して疲労感が生じるということが判明しました。
図5のとおりマウスを強制的に泳がせるという運動負荷試験では、10分程度でも疲労による移動距離や運動時間の減少がみられ、各種臓器・組織において「eIF2α」のリン酸化と炎症性サイトカインの賛成が認められ、特に炎症性サイトカインの産生は肝臓で圧倒的に多いことから、肝臓が疲労感の発生に関わる主要な臓器ということが言えるようです。
また近年の研究では、エナジードリンクに含まれる抗酸化物質の摂取により、疲労感が取れたという錯覚に陥り、無理をした結果、強い疲労感や疲労が残るというようなケースもあることが分かったようです。
マウスに抗酸化物質の「Nアセチルシステイン(NAC)」を投与した実験では、運動後の肝臓後の炎症性サイトカインの産生が低下したという結果が出ています。
抗酸化物質で疲労を抑えることができたかのように思われがちですが、心臓など他の臓器では「eIF2α」という物質のリン酸化が進み、たんぱく質の合成が抑制され臓器・組織の機能低下が進み抗酸化効果は得られない反面、肝臓では、炎症性サイトカインの産生という疲労のシグナル機能の低下により、疲労感が感じにくくなるため、無理をすれば体調を崩すことになります。(図6)
例えばコーヒーの場合、抗酸化作用の強いクロロゲン酸と覚醒作用のあるカフェインを含むため、摂取すると疲労感が消失しやすい反面、疲労のシグナルも低下しやすいということになります。
エナジードリンク、栄養ドリンク、コーヒーの場合、鎮痛剤のように頓服的に摂取すれば、一時的に役に立つものの、効き目が切れた時の反動が大きく、大量かつ連続摂取は禁物と言えます。

本日は主に疲労のメカニズムについて近藤先生のお話をしました。ヘルペスウイルスの量と生理的疲労の関係については勉強となり大変興味深い内容でした。
次回は後編として引き続き疲労についてのお話をします。

疲労について(前編)
疲労について(前編)
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