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「ワトソンというAIについて(後編)」

2022.02.21

未指定

皆様こんにちは。

「ワトソンというAIについて(前編)」に引き続き、本日は「ワトソン」の現状と将来性、またヒトとの関わり方などについて東京大学医科学研究所先端医療研究センターのセンター長 東條有伸先生のお話をします。

 

「ワトソン」が提示できる治療薬は分子標的薬に限定されている上、血液内科領域で認可されている分子標的薬はまだまだ少なく、現状ではワトソンの結果が治療に結びついてないそうです。

さらに、遺伝子変異数に対して薬の数が追いついてない上、医療保険の適用外で使用できないことも要因になっているそうです。

現在、認可されている分子標的薬は食品医薬品局(FDA)が承認した薬剤、もしくはアメリカで治験中の薬剤とされており、「ワトソン」を活用するためには、このような問題をクリアする必要があるようです。

また臨床上、安心して活用できるよう「ワトソン」の解析精度を高めることも重要課題だそうで、本プロジェクトの目的の一つにもなっているそうです。

また「ワトソン」が選び出した遺伝子変異がその患者さんにとって本当に重要なのかどうかを判別するため、東京大学医科学研究所では「ワトソン」の他、独自の解析システムでも遺伝子解析を行いながら、両者の結果を比較検討しているそうですが、解析結果に今のところ大きなズレはないようです。

精度を検証する際、重要度の低いもの、高いものをチェックし、重要度の高いものを見逃していた場合、ピックアップし、IBMにフィードバックします。

また本プロジェクトが始まってから、「ワトソン」は数回にわたりアップデートされていますが、同じ検体のデータを「ワトソン」に入力した場合、アップデートの前後で解析結果が異なるそうで、その都度、副次的な遺伝子変異の入れ替わりが生じるようです。

今までに2000万件を超える医学論文を読み込んだとされている「ワトソン」ですが、常時新たな情報が追加されていて、その都度、重要度に順位をつけ定評化するという、いわゆる重み付けのアルゴリズムが更新されているとのことです。

ワトソンの学習内容は公開されていませんが、情報のエビデンスレベルは良いもの悪いものが混在している可能性があるので、アップデート後も「ワトソン」の解析結果の大きな変動がなく、安定した高い精度を維持するために、質の高い大量の情報を継続的に学習させることが必要だそうです。

現在、様々な「医療用ワトソン」の臨床研究は進められていて、「医療用ワトソン」によるがんの診断支援システム「ワトソン・オンコロジー」では、年齢、人種、がんの組織型、転移の有無など、がん治療における重要な臨床データを入力するようになっているため、提示する治療の選択肢も分子標的薬に限ったことではありませんが、この「ワトソン」では、そのような臨床データの入力は省略されていますので、当然、学習する情報や重み付けも異なります。

AIは遺伝子解析において、どこの塩基配列が違っているのか、その違っている箇所を識別するパターン認識については得意分野としていますので、今後、医療でのAIの活躍の場面として注目されているのが、パターン認識を駆使する画像診断となります。

ディープラーニング(深層学習)の技術を用いてX線やCTなどの画像データに取り込み、様々な疾患の画像パターンをAIに学習させて、診断に活用するというもので、例えば診断が困難な循環器系疾患を高確率で見つけたり、肺がん検出率が放射線診断医を大きく上回るような事例も報告されています。

多くのがんは画像診断と遺伝子解析、血液検査で診断する訳ですが、将来これらの結果をAIが統合し、分析することも可能になるかもしれないということです。

しかし、患者さんのとのコミュニケーションを必要とする場面ではAIの導入が困難とされています。

図3のとおり、患者さんと直接接する医療の「出入り口」というべき問診、診断、治療方針の決定などについては、やはり「医師」が行うべきで、患者さんが治療に納得して患者さんの満足度を高めてもらうためには、AIを搭載したアンドロイド医師ではなく、患者さんの思いを汲んで、寄り添い、柔軟に対応できる生身の人間である「医師」が担当すべき分野であるということになります。

「ワトソン」のように万能型ではなく、ある機能に特化したAIであれば、医療現場で活用される日は近いかもしれませんし、10年以内には特化型のAIが診療をサポートしているようになれば、医療の質は向上するでしょう。

AIが学習する情報量と質が担保されれば、可能性のある病名はくまなく提示され、重大な疾患の見落としを回避できたり、診断が困難な症例を早期診断により、より早く適切な治療を行うことができる利点が生まれます。

またデータの下処理をある程度AIが担当することで、医師の負担軽減に繋がり、できた余裕を患者さんの向き合う時間に費やせることもできれば、AIを導入することによって、医師と患者さんは密接な関係になることも期待できます。

懸念されるのは、AIに対して過度の依存により医師が思考しなくなったり、「システム障害」でAIが使用できなくなった状況に陥った場合、医師が何も対処できないという事態です。

医師はAIから学ぼうというスタンスが望ましく、AIの位置づけは、あくまで医師の意思決定に助言を与えてくれる「パートナー」という関係が理想的な関係だということになります。

 

本日は医療界のAIである「ワトソン」について東条先生の大変興味深いお話をさせて頂きましたが、「ワトソン」の活用分野の将来性に期待するとともに改めて関わり方がとても大事だということが分かりました。

 

 

「ワトソンというAIについて(後編)」