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歯科における再生医療として期待される脂肪肝細胞による顎骨再生術について

2021.02.12

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皆様こんにちは。
「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療新法)」が2014年11月に施行されてから、ヒトの細胞や組織を使った再生医療の研究が積極的に行われるようになり、とりわけ幹細胞再生医療に注目が集まっており、歯科医療においても欠損歯補綴治療に利用する機会が増えているようです。
今回、歯科医療における再生医療の流れと最新の動向について、医科との連携により、わが国で初めて脂肪肝細胞を用いた顎骨再生術に取り組んだ東京歯科大学 口腔腫瘍外科学講座 臨床准教授兼、医療法人社団 木津歯科理事長の木津康博先生のお話をします。

歯周病や顔面外傷などで1本でも歯牙が喪失すると、顎骨の骨量は減少し始める。2012年のシステマティック・レビューによると、上顎、下顎問わず抜歯後は30~60%の骨量が減少するという報告があるように、歯牙には顎骨の骨量を維持するという役割があります。
ちなみにシステマティック・レビューとは、文献をくまなく精査の上、ランダム化比較試験(RCT)のような必の高い研究データから、出版バイアスのような偏ったデータを取り除いて分析を行うことをいいます。
例えば、抜歯後にインプラント治療を行うにあたり、顎骨に骨量が少ない場合、骨移植が必要となりますが、骨移植に使用する骨補填材には、「腸骨による自家骨」「牛骨などの異種骨」「人工合成骨」があります。
骨には、移植された骨が生存、その後、新たな骨を形成する骨形成能、骨を形成する細胞を誘導、さらに造骨する骨誘導能、骨を形成するための足場を提供する骨伝導能という3つの機能があり、このすべての機能を満たすのは「自家骨」で、「異種骨」や「人工合成骨」は、骨伝導能は「自家骨」と同程度であるものの骨形成能、骨誘導能は劣るようです。
そのため、患者さん自身の腸骨などから海綿骨の骨片を採取して顎骨欠損部に補填する「自家骨移植」が主流だそうですが、高額であるということと、侵襲性が高く周術期の身体的負担が大きいため、運動機能が回復するまでに時間もかかり、足のしびれなどの術後合併症を引き起こす可能性もあるという欠点もあるようです。
そんな「自家骨移植」に代わる方法を開発するにあたり、再生医療新法が施行されると、全国の数千か所の歯科診療所が「第三種再生医療等」を取得し、低リスクであるL-PRF(白血球含有濃縮血小板フィブリン)療法に取り組み始めました。
患者さんの血液を採取後、遠心分離により抽出した成長因子などの血小板濃縮材料を人工合成骨に混ぜて顎骨欠損部に補填するというもので、細胞を誘導しやすい環境をつくり、造骨能力を高めようとする方法で、木津歯科では2015年から取り組み、年間100症例以上実施しているそうです。
患者さんの同意の下、これらの症例を対象に鶴見大学歯学部 病理学教室と共同で治療後半年の顎骨の骨密度を測定したところ、新生骨が33%と既存骨59.7%の約半分に相当する結果となり、再生医療を活用することで人工合成骨においても骨誘導能が期待できることが判明しました。
さらに人工合成骨の機能を自家骨に近づけるため、現在「脂肪組織由来の幹細胞再生治療」に取り組んでいるそうです。
患者さんから採取、抽出した幹細胞を用いて失われた部位の細胞や組織を再生する方法で、有効性に加え、生体に対する拒否反応がないため、極めて安全性の高い治療法であると考えられているようです。
これまでに脳梗塞、脊髄損傷、慢性心虚血、肝硬変、腹圧性尿失禁、変形性膝関節症、強皮症、乳房再建、毛髪再生など様々な疾患に利用されている治療法だそうです。
歯科医療分野では、2012年にオランダの研究グループが脂肪肝細胞による顎骨再生治療の可能性を、2016年には治療プロトコルも発表しました。(図)
その後の臨床研究にて、脂肪肝細胞を用いない場合よりも用いることで、骨密度が高いことが判明し、免疫組織学的検討においても新生骨に血管が形成されていたことが判明し、骨形成能への期待が高まっています。
2017年、木津歯科では中リスク技術を提供する施設に認められる「第二種再生医療」を取得し、
倫理委員会の承認を得た上で、2019年1月にはオランダの治療プロトコルに基づいた脂肪肝細胞による国内初の顎骨再生術を行ったそうです。
その後この治療法を実施しているそうですが、実施するにあたり、内科医によるメディカルチェックによる施術前の安全性の確認、脂肪肝細胞の採取における全身麻酔、形成外科医による脂肪幹細胞抽出のための脂肪吸引など、医科との緊密な連携が不可欠なようです。
ちなみに脂肪吸引はへそから吸引針を刺すというもので、腹部の傷は残らず、日帰り手術になるそうです。
熟達した形成外科医であれば30~60分と短時間での採取が可能となり「自家移植」に比べて身体への負担もかなり軽減され安全性も高まるようです。
吸引後には、痛みや腫れはないものの、2~3週間程度で消退する皮下出血が生じるようです。
2019年に実施した3症例において、顎骨再生術から半年後に測定した骨密度は、いずれも上昇し、臨床的所見、X線所見、免疫組織学的所見、いずれも良好な骨形成能が認められたようです。

今後は歯周病に留まらず先天性疾患、頭頚部がん、事故等による外傷で失った顎骨再建が期待できるとのことですので、わが国における再生医療の一つとして脂肪肝細胞による顎骨再生術を医科と連携した汎用性のある治療システムとして確立するにあたり、まずは医科での顎骨再生術への着目に期待するところだそうです。


本日は再生医療について木津先生のお話をさせて頂きましたが、大変、将来性のある興味深いお話でした。

一日も早く、この顎骨再生術が当たり前に行われるような再生術として確立されることを期待しています。

歯科における再生医療として期待される脂肪肝細胞による顎骨再生術について