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歯科心身症への対応について

2020.03.18

未指定

皆様、こんにちは。

機能的な異常は見つからず、「気のせい」と捉えられがちな「歯科心身症」につきましては、以前から知られていますが、近年では脳の認知機能が関与しているということで、「抗うつ薬」により約6~7割の症状を改善できるということが判明致したそうです。

本日は、そのような「歯科心身症」と呼ばれる歯科領域における不定愁訴の第一人者で、年間延べ1万人余りの患者さんに対応されている東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 歯科心身症分野教授 豊福明先生のお話をします。

 

歯の治療自体には問題がないのに「痛みが取れない」「噛み合せが合わない」など歯科領域における不定愁訴は「歯科心身症」と呼ばれており、以前からよく知られていましたが、学会でも厳密に定義付けが確立されていないのが現状だそうです。

図1のとおり「舌痛症」「非定型歯痛」「「咬合異常感」「口腔異常乾燥症」「口臭症」などが「代表的な歯科心身症」であり、症状は「痛み」の他、「舌のピリピリ」「口の中のネバネバ」「口渇」「味覚障害」「口臭」など多様性に富んでいます。

患者さんの8割は女性で、40~60歳の更年期世代が大半を占めているようで、増加傾向にあるようです。

また、世代間別で見ると、30歳代では「非定型歯痛」、40~50歳代では「舌痛症」、60歳代以降では「口腔異常乾燥症」というように疾患の傾向にやや違いがあるようです。

また近年「口腔異常乾燥症」につきましては、神経を使う知的作業に従事する男性も増加傾向を示しているそうです。

各種所見で異常がなく、説明のつかない患者さんの訴えに対して、術者は精神的な原因を疑い「気のせい」と捉えがちですが、「歯科心身症」は「歯科治療」がきっかけで発症することも多く、精神疾患を患い精神科での積極的な治療を必要する患者さんは2割程度しかいないそうです。

「歯科心身症」の原因は不明ですが、心と体が絡み合った複雑な病態には、「脳」が介在していると考えられるようで、患者さんが嘘をついているのではなく、「脳」の中で、「そのように感じるエラー」が生じているという図2のような仮説を立て、様々な研究に取り組んできたそうです。

例えば、頑固な口腔異常感を訴える「口腔内セネストパチー」と呼ばれる患者さんを対象に、脳血流SPECTという検査を実施したところ、側頭葉や頭頂葉など広範囲にわたり局所血流量に左右差があることが判明したそうで、このような脳の変化から、患者さんの訴えは「気のせい」ではなく「脳機能のアンバランス」に起因する可能性があると考えられ、その後の研究から、脳の連合野における情報処理過程の歪みや神経伝達物質レベルの障害が起こっている可能性が示唆されたようです。

また、腰痛や頭痛を持病とする人に多く見られるため、共通の訴因を解明するため、「抗うつ薬」を積極的に利用した脳機能障害を前提とした治療へも取り組んでいるそうです。

この薬剤の有効性は認められている反面、効果や副作用については個人差が大きく、エビデンスが蓄積しにくいということから、患者さんの病態を十分に把握した上で、個々の特性を十分に踏まえた処方が重要になるようです。

「従来抗うつ薬」は「新規抗うつ薬」に比べて、「副作用」が大きいとされていますが、「効果」が実感しやすいため、継続的な服用に繋がり、予後も良いとされていて、患者さんの6~7割に症状の改善が見られるようです。

なお「舌のピリピリ」については即効性があるようですが「口渇」「味覚障害」の改善には時間がかかるようです。

薬物治療を成功させるもう一つのカギは、患者さんとの対話に時間をかけることだそうです。

「気のせい」と言われ続けてきた患者さんは「自分は精神を病んでいる訳ではない」という意識があることから、「抗うつ薬」を処方されることに強い抵抗感を抱くため、「精神疾患に対する服用」が目的ではなく、「脳の認識の歪を改善するための服用」であるということを認識して頂くことが重要になるようです。

また「心身症」の場合、「認知行動療法」などの心理療法を取り入れる場合も多く、患者さんの理解が得られない場合、「抗うつ薬」以上に強い抵抗感を示す場合が多いため、「抗うつ薬」で症状の改善が見られた段階で取り入れ、減薬として適用するのが効果的だそうで、最初から行うべきではないようです。

一般的に歯科医院では「抗うつ薬」を処方する機会は少ないため、薬物治療の対象患者さんがいらした場合、「歯科心身症の専門施設」への紹介ということになるようで、豊福科長の歯科心身医療外来では地域歯科診療所からの紹介が全体の50%を占めるそうで、症状の寛解後は紹介医に管理を依頼しながら「2人主治医制」などの体制を取っているそうです。 

また「歯科心身症」の症状は全身に及ぶこともあるようで、医科との連携が必要となる場合もあるようです。


本日は「歯科心身症」について、豊福先生の大変、興味深いお話でした。

矯正歯科医院にご来院される患者さんの中には、問診から「噛み合わせが合わない」「めまい」「片頭痛」「顎の痛み」などの症状を抱えておられる方も少なくありませんので、本日のお話を踏まえて日常臨床に関わっていきたいと思います。
















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