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がんの診断に関わる「マイクロRNA」について(後編)

2019.12.18

未指定

本日は後編として、前回に引き続き「マイクロRNA」について、東京医科大学医学総合研究所分子細胞治療研究部門 落谷孝広 教授のお話をします。


「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発プロジェクトクト」では、検査に用いた血液量は100㎕でしたが、落合先生によると技術的にはさらに少量でも検出が可能なのだそうで、「簡易血糖測定器」のように簡便ながん検査が可能になれば、医療機関に行かなくても近所の薬局でがん検診を受けられるようになるとのことです。 

国民の2人に1人ががんになると言われる昨今、がんになった場合、がんと共存しながらその人らしく生きることが大切だと考えられていて、そのためには、転移をいかに抑えられるかが重要になると考えられています。

例えば、がんの「脳」への転移は、予後への影響が大きく、頭痛、嘔気、めまいなどの症状によりQOLを著しく低下させます。

脳は異物の侵入を防ぐ「血液脳関門(BBB)」によって厳重に守られていますが、この強固なバリアを突破することが脳への転移とされ、そのメカニズムは「乳がん」によって解明されました。

がんは大きくなると酸素や栄養が行き渡らなくなるため、がん細胞は生き延びるため大量の「エクソソーム」を分泌し、転移の準備を始めるそうで「血管」が主な転移ルートになります。

脳への転移のメカニズムにおける第一ステップでは、がん細胞が特定の「マイクロRNA」を含む「エクソソーム」を「血管内皮細胞」に分泌し、その「エクソソーム」が「血管内皮細胞」に入り込むと「マイクロRNA」が「血管内皮細胞」に血管新生を誘導することになります。

さらに、がん細胞から分泌された「エクソソーム」が脳に到達すると「BBB」を構成する「脳血管内皮細胞」に入り込み、「エクソソーム」に内包されていた「マイクロRNA181c(miR‐181c)」が「脳血管内皮細胞」を攻撃して「BBB」を破壊した後、がん細胞はバリア機能を失った「BBB」を通過して脳への転移を容易にするというステップを踏むそうです(図6)。

また、ステージⅢ・Ⅳの乳がん患者さんの血液中にある「マイクロRNA181c」の測定結果において、脳転移のない患者さんからは、ほとんど検出されなかったのに対し、脳転移がみられた患者さんからは、有意に増加していることが判明したようです。

ことから「マイクロRNA」を使用すれば、転移のモニタリングを簡便に行うことができる上、QOLを維持するための手立てになるようですし、「エクソソーム」と「マイクロRNA」による「BBB突破のメカニズムは、どのがんの脳への転移にも共通したメカニズムと考えられるばかりではなく、骨転移のメカニズムについてもがんの種類を問わず「マイクロRNA」と「エクソソーム」の共同作業とされています。

また、転移の際にがん細胞から大量に分泌される「エクソソーム」を阻害して転移を抑制しようというがんの治療方法についての研究も行われているようです。

ちなみに「乳がん」のモデルマウスを用いた治験では、「エクソソーム」の表面にある膜たんぱく質(CD9、CD63)に特異的な抗体を投与した所、肺転移の抑制効果が見られたようです。

また、生体外の実験では「エクソソーム」に抗体が結合すると「マクロファージ」への取り込みが促進されたということも判明したようです。

この所見は「がん細胞」を直接攻撃しないことで、がん細胞が異変を起こして耐性を獲得するのを抑制できる可能性があることを意味しており、そうなれば治療が困難にならずに済むことに繋がります。

なお、血液中の「マイクロRNA」のうち、「エクソソーム」に内包されているのは38%で、「エクソソーム」に内包されている、いないについてはまだ分っていないようですが、様々な研究から、がん細胞がかなり巧妙に「マイクロRNA」と「エクソソーム」を使い分けしていることが断片的に分かってきたようです。

 今後もこの分野の研究を通して、「がん」と共存しながら、いかにQOLを維持できるかについてについて多くの期待が寄せられているところであります。


今回は前編、後編にわたり「マイクロRNA」について落合先生に貴重なお話をさせて頂きました。

今後、この「マイクロRNA」を用いたがん検診が近い将来、手軽かつ安価に行える方法として普及することで、がんの早期発見・早期治療、しいてはがんの死亡率低下に繋がってほしいと思います。


がんの診断に関わる「マイクロRNA」について(後編)