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iPS細胞を利用したパーキンソン病の治験について(後編)

2019.11.09

未指定

皆様こんにちは。

前編に引き続き「iPS細胞の再生医療について」というテーマでお話します。


iPS細胞を使ったパーキンソン病の一連の研究では、治験を行うにあたり革新的な2つの技術が開発されたそうです。

その1つ目は、細胞の大量培養が可能となった培養法を開発できたことです。

臨床応用を行うにあたり大量の細胞が必要で、従来の培養法ではマウス胎仔由来の細胞を使用していましたが、動物由来の成分を含まない新たな培養法の開発が必要でした。

そんな中、効率よく細胞を増殖させるのに最適な「合成ラミニン」を使用する培養法を開発した結果、従来の20倍以上の濃度で「ドパミン神経前駆細胞」が得られるようになったようです。

2つ目は、iPS細胞から目的の細胞だけを選択的に作ることはできず、様々な細胞が混在してしまいますが、図8に示したように、「セルソーティング(細胞選別)」という目的の細胞だけを選別、濃縮する方法が開発できたことだそうです。

「セルソーティング」により、腫瘍化する可能性がある細胞を除去することができる上、目的の細胞の割合を増やすことができるようになったことで、より安全かつ効率的な細胞移植が可能となりました。

抗コリン抗体を用いた「セルソーティング」により「ドパミン神経前駆細胞」を約80%まで濃縮でき、この方法で作製した細胞をパーキンソン病モデルラットの脳に移植したところ、腫瘍の形成はなく、運動機能の改善が見られたそうです。

パーキンソン病患者のiPS細胞から作製した「ドパミン神経前駆細胞」は脆弱な可能性があるため、患者由来の細胞をそれぞれのサルに移植した実験で行動解析を行った結果、両者に差はなく、どちらを移植しても安全性が高く、脳内で機能することが判明したそうです。

これにより、少なくとも孤発例のパーキンソン病患者さんには、自家移植が可能であることが明らかになりました。

自家移植は他家移植のような既製品ではなく一点物に相当するため、移植細胞を作るには時間やコストがかかるという課題が生じるため、CiRAでは「再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト」を立ち上げ、解決されたようです(図9)。

ヒトの細胞型を表すHLA(ヒト白血球型抗原)のうち、「ホモ接合体」という特殊なタイプはABO式血液型でいうO型のように、比較的多くのHLA型の人に拒絶反応が少なく移植できるとされているようです。

日本人で一番多いHLAホモ接合体型の細胞が1種類であれば、約17%の日本人に移植が可能となるようで、CiRAの「再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト」では、HLAホモ接合体を持つ健康なボランティアの方々に細胞を提供して頂き、医療用iPS細胞を作製、保存し、必要に応じて国内外の医療機関や研究機関に迅速に提供するという取り組みがなされています。

2017年には、ストックしているiPS細胞から網膜の細胞を作製し、提供した実績があり、自家移植に比べ、時間や費用も格段に抑えられるという良さがあります。

パーキンソン病の治験には、このストックしているiPS細胞を活用した他家移植による方法を選択しています。

現時点でストックされているのは、頻度が最も高いタイプの他、2番目に高いタイプの2種類だけですが、これらのタイプに適合しなくても、免疫抑制剤の利用で免疫反応を抑えられるようです。

京都大学医学部附属病院のHPには「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治治療に関する医師主導治験開始について」にその詳細とともに、2018年8月1日より治験開始と記載がされています。

この治験による良好な結果が得られ、安全性を確保した上で7条件付き承認制度の適用が受けられれば、10年後にはiPS細胞による再生医療がパーキンソン病治療の有効な選択肢となっている可能性を秘めており、今後はパーキンソン病をきっかけとして、脳梗塞など他の脳神経疾患についてもiPS細胞による治療研究を進めて行く予定だそうです。


前編、後編にわたり高橋先生によるiPS細胞によるパーキンソン病の治療につきまして大変、貴重なお話させて頂きましたが、将来、様々な病気に対して、iPS細胞を用いた治療が一つの大きな一つの選択肢となることを期待したいと思います。

iPS細胞を利用したパーキンソン病の治験について(後編)
iPS細胞を利用したパーキンソン病の治験について(後編)