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「幻肢痛」の治療に活用されるVRについて(前編)

2019.08.03

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皆様こんにちは。

ゲームなどで知られているバーチャルリアリティー(VR)が、手術のシュミレーションや疾患の疑似体験などの医学教育など医療の分野でもその活用の場を広げております。

そんな中、東京大学医学部附属病院ではVRを活用して、「幻肢痛」の治療に対する臨床研究を行っています。

本日は、前編として、そのようなVRを活用し、「幻肢痛」を軽減するための取り組みについて、同大学病院 緩和ケア診療部部長 住谷昌彦 准教授のお話をします。

 

VR」とは「仮想現実」と訳され、実際には存在しない仮想空間を創ることを意味し、現実のような疑似体験ができるというのが特徴で、このVRを応用し、「幻肢痛」の治療に応用し、臨床研究を行っています。

手や足を切断したにもかかわらず、手足が存在するような感覚を「幻肢」といい、その「幻肢」が痛むという不思議な現象を「幻肢痛」言い、「幻肢」を自覚しても「幻肢痛」を発症しない人もいるそうですが、実に四肢を切断した50~80%の患者さんが経験しているそうです。

四肢の切断だけではなく、脊髄損傷や神経障害による運動麻痺や感覚遮断でも発症するようです。

まだ、「痛み」が発症するメカニズムが解明されていないようですが、脳の体の地図(体部位再現地図)が書き換わることが関係していると考えられているようです。

手の切断による「幻肢痛」を発症した患者さんの場合、脳の地図は書き換えられ手の領域が縮小し、隣接する口唇や顔面領域が拡大するとされていて、領域の広がりが大きい程、「痛み」は強くなる。

下肢の「幻肢痛」を発症した患者さんの場合でも、縮小した下肢領域に体幹部から手の領域がずれて、口唇や顔面の領域が広くなる(図1)。

手の領域が縮小するということは、手が使えていないことを意味するだけではなく、脳は「代償機能」として、別の機能として口や顔面に‘場所貸し’という判断をするようです。

「幻肢痛」のメカニズムについては、脳から四肢に「動け」という指令が出されても動かないため、動いたという感覚情報は脳へフィードバックされないため、脳が「体の異常」を知らせるシグナルに相当する「痛み」を発現していると考えられているようです。

例えば、義手や義足は脳にとって指令により動かせる健常な手足、つまり健肢になるようですが、義手より義足の方が装着頻度は多いことと、下肢より上肢の方が「幻肢痛」の発症頻度が高く、長期化しやすいことは相関しているようです。

このように、脳にとって健肢とは「自由に動かせる」ということになるので、たとえ幻肢でも自由に動かせるイメージを持つことによって、脳は健常と判断し、「痛み」が軽減できると考えることができます。

実際に動かすことができなくても、脳に感覚情報をフィードバックさせることができればよいということから、「鏡療法」という鏡に映る健肢の像を動かない手足に見立てて、あたかも動いているように脳に思い込ませるリハビリテーション方法があります。

この方法は、一定の効果が見られるものの鏡に映る範囲で単純な運動に限られため、リハビリに対する飽きを解消し、より強く「幻肢を動かしている」という実感が得られるようにとVRの活用に至ったようです。

開発された「VR療法」は、上肢の「幻肢痛」を対象としており、まずは赤外線カメラで健肢の情報を収集し、健肢の3次元CGを作成、そのCGを左右反転させて「バーチャル幻肢」を作成するというものだそうです。

幻肢が動く様子は、装着したヘッドマウントディスプレイ(HMD)にリアルタイムで映し出されます。

動かない手や腕が動く疑似体験をすることで、脳の指令と現実のギャップを解消し、「痛み」を緩和します(図2)。

VR療法は月1度の頻度で行い、自宅では毎日15分の鏡療法を併用します。

1回の治療は15~30分、4~5パターンのゲーム性のあるVRを活用したタスクに取り組むことで、患者さんの集中力も持続するようになったようです(図3)。

また、「鏡療法」のみの場合と比較したデータはないようですが、VR療法の方が、よりリアルに「自分の手」として実感できるため、動かしているイメージが鮮明に残りやすく、40%程度の疼痛緩和効果が高いようです。

またVR療法は「効果の即時性」という点では、「鏡療法」とは異なっているようで、治療直後から「痛みが緩和した」という意見が多く寄せられているそうです。

この治療は幻肢を動かせるようになり、痛みが緩和されることが最終目標ですが、治療期間は患者さんによってバラツキがあり数回で終了した事例もあるようです。

VR療法」では、幻肢を動かせることと「幻肢痛」の改善に有意な相関関係が示されているようですが、「VR療法」の導入前から、幻肢を動かすイメージを持てる患者さんは「痛み」が弱いことは臨床経験から判明していたようです。

その「痛み」の強さについては、患者さんの感覚に基づいた自己申告で、幻肢を動かせる程度も患者さんにしか分からないという課題があったため、健肢の動きから、幻肢の動きを定量的に評価する「両手干渉課題」という方法を開発したそうです。

その方法は、健肢で直線を、幻肢では円を同時に描くというもので、幻肢を動かせない患者さんの場合、健肢で綺麗な直線を描けるようですが、幻肢を動かせる患者さんの場合、幻肢で描く円の動きにつられ健肢で描く直線は円に近づき膨らむようです。

つまり、健肢で描く直線がゆがむ患者さん程、幻肢を動かせているということになるので、痛みが弱く、逆の相関関係が示されているようです(図4)。

このことから、「幻肢痛」の発症に「幻肢の動き」が大きく関わっていることが明らかになり、この成果を「VR療法」に生かせることになったようです。


本日は前編として、聞きなれない「幻肢痛」、さらに「鏡療法」、VRを活用した「VR療法」について、住谷先生の大変、興味深いお話をさせて頂きました。


「幻肢痛」の治療に活用されるVRについて(前編)
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