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腸内細菌研究の最新レポート(前編)

2019.04.08

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本日は、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所ワクチン・アジュバンド研究センター長の国澤純先生による腸内細菌研究の最前線のお話をします。

 

遺伝子解析技術が進歩した今日の食事や腸内細菌に関わる免疫制御の基礎研究によると、腸内細菌の菌種の他、腸内細菌が持つ酵素や代謝物が重要であり、免疫に関わる健康作りは各自の腸内細菌叢に合う食事の質と量を組み合わせることがとても大事になるそうです。

消化吸収だけではなく全身の6割もの免疫細胞が集まるとされる人体最大の免疫器官でもある腸における腸管免疫とは、食物とともに体内に入る細菌やウイルスという有害な異物に対して攻撃、排除する反面、食物成分や腸内細菌などの有益な異物については共存、共生するというシステムを持っています。

 

そんな人間の腸内には1000種、100兆個におよぶ腸内細菌が存在し、腸管以外の臓器、器官の免疫にも関与しています。

また、腸内細菌叢の変化が、炎症性腸疾患などの消化器疾患、糖尿病のような炎症性疾患などの代謝・循環器疾患、アレルギーなどの免疫疾患、自閉症などの精神・神経疾患に関与していると言われているそうです。

糖尿病の場合、肥満によるインスリン抵抗性の発症に、内臓脂肪の慢性炎症が関与しているとされていますが、肥満ではなく、腸内細菌叢の乱れが腸管のバリアーの機能低下をきたし、慢性炎症が引き起こしやすくなると言われていますし、自閉症の場合、白米やうどんなど「白い食品」しか口にしないなど、非常に強いこだわりから、偏食による腸内細菌叢が乱れ、腸炎などの腸疾患に罹患している可能性が高いと言われています。

腸管免疫は「何をどれだけ食べたのか?」という食事に左右されるため、腸内細菌叢や代謝を考慮した食事内容が非常に重要になるそうです。

食物は体の栄養になるだけではなく、腸内細菌の餌にもなり、宿主である人間と免疫や代謝を通して、複雑な相互作用により恒常性を保っています。

腸内細菌叢は食物によって変化するだけではなく、腸内細菌の代謝物も体の免疫機能を左右するとされています。(図1)。

研究センターでは、腸管における「食事―腸内細菌―宿主」をつなぐネットワークを解明するために、食事と腸内細菌の相互作用について、食物の中で吸収しやすく、体組成に反映されやすい脂質(脂肪酸)を用いた脂肪酸代謝と免疫抑制の研究を行っているそうです。

図2では、ω6脂肪酸(リノール酸)が多く含まれる大豆油の餌で飼育した食物アレルギーモデルマウスが、高頻度でアレルギー性の下痢を発症する一方で、ω3脂肪酸(α-リノレン酸)が多く含まれる亜麻仁油の餌を与えた場合、顕著に発症が抑えられ、脂肪酸組成の違いにより免疫応答が異なることを示しています(図2)。

亜麻仁油に含まれるα-リノレン酸は体内でDHAや血小板の凝集抑制作用や炎症抑制作用があるEPAに分解されます。

またEPAからは強い生理活性を有する様々な代謝物が作られるようですが、シトクロムP450(CYP)という酵素により、EPAはエポキシ化した17,18-EPETE(エポキシエイコサテトラエン酸)という代謝物に変換されるようです。

ω3脂肪酸(α-リノレン酸)が多く含まれる亜麻仁油の餌で飼育したマウスの腸管組織では、免疫細胞が多く存在する粘膜固有層にα-リノレン酸が集積し、この代謝物が顕著に増加したそうです。

先ほどの実験結果の通り、大豆油の餌で飼育したマウスに17,18-EPETE(エポキシエイコサテトラエン酸)を投与すると、アレルギー性の下痢の発症率が減少するなど腸疾患に対してだけでなく、接触皮膚炎モデルマウスでは耳の腫脹が抑制され、抗アレルギー作用が認められるようです(図3)。

ちなみに、EPAやその代謝物が多く含まれている亜麻仁油を摂取している母親の母乳で育った子供は、アレルギーになりにくいそうです。

EPAを17,18-EPETE(エポキシエイコサテトラエン酸)に変換する薬物代謝酵素の代表格であるCYPは、

サブタイプや遺伝子多型が多数あり、個人差が大きい酵素でもあるため、その違いで最終代謝物が違ってきます。

つまり、食物の影響や薬効に個人差が生じるということになります。



本日は健康な生活を送る上で、免疫力は非常に大切な要素であり、その中心的な役割を果たす腸における腸内細菌について、とても興味深いお話でした。



 


腸内細菌研究の最新レポート(前編)
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